商品ページへ

2025.9.5  new release !

「ミニマリズムと人の手の温もりが出逢うとき ワイヤーアーティストHAyUが語る
創作の原点と巨匠アルネ・ヤコブセンとの対話」

ワイヤーアニマルヘッドという独自の世界を確立しながら、新たな領域へも積極的に挑戦し続ける注目のアーティスト、HAyUさん。ハンドクラフトならではの温かみ、そして自然や動物に対する優しさや愛情にあふれるその作風と、究極のデニッシュモダニズムともいうべきアルネ・ヤコブセンの腕時計が、奇跡的な邂逅を果たしました。今夏、数量限定で登場するコラボモデル「CITY HALL 34MM X HAyU」の発売を前に、“ミニマリズムの巨匠”と”優しい手仕事のアーティスト”がいかにして共鳴し、珠玉のプロダクトを生み出したのか --- HAyUさんのアトリエでお話を伺うことができました。


美容師、農家、父だからこそ辿り着いた創作の原点

長閑な田園風景が広がり、美しい緑と水と空気に包まれた茨城県のとある場所。ワイヤーアーティストとして活動するHAyUさんのアトリエは、そんな自然豊かなエリアに建てられたご自宅リビングに隣接した、光あふれる心地よい空間でした。

「ありがたいことに製作に追われる毎日で……、最近はここに籠もりっきりですね」と語る、HAyUさん。真っ白な壁一面はお気に入りのアーティストによるペイントとともに自身の作品で埋め尽くされ、その多くがモノトーンのアニマルヘッドということもあって、さながら静謐でミニマルな“インテリアアート動物園”のよう。ファンならずとも垂涎のアートピースの大群に、ワクワクが止まりません。

誰もが目にした瞬間に心奪われ、優しい気持ちになれるHAyUさんの作品は、国内外で高い評価を獲得し、抽選販売でしか手に入れることができない現状からその価値はうなぎ登り。しかしそんな大人気アーティストのキャリアのスタートが、実は美容師だったというのはあまり知られていない事実かもしれません。

「個人店から有名店まで、いろんなサロンで10年ほど働いていたのですが、競争は激しいし先輩たちのようになりたいとも思えないし、意外と思われるかもしれませんが手先が不器用だったりするし……。一生の仕事にはできないな、と考えていたんです。親が元気なうちに家業を継ぎたいという想いもあったので、どうにか妻を説得してこちらに戻ってきました。妻は都心志向なうえアパレル業界で働いていたので、何年も掛かってしまいましたけどね(笑)」

2010年、満を持して帰郷したものの、家業であるバラ農園は「人手が足りている」というまさかの理由から、知人の紹介で仏花を手がける農家へと転身したというHAyUさん。しかし地球規模の気候変動や天候に大きく左右される仏花ビジネスはとても不安定で、また同世代の友人が誰もおらず、大都会の東京から“田舎”へと劇的に変化した生活環境も、夫婦にとって大きなストレスとなっていたそうです。そんな暮らしのなかで運命的に手にしたのが、仕事で日常的に使っている園芸用のグリーンワイヤーでした。

「ワイヤーアートを始めたきっかけは、そこにグリーンワイヤーがあったからです(笑)。こちらに来て心機一転、家を新築したのですが、いざできあがってみると真っ白い壁がすごく寂しく感じて……。なにかを飾ろうにも、近所では気の利いたアートやインテリアなんて売っていない。自分は絵なんて描いたこともないし、これは何かしらを“つくる”しかないな、と考えました。そんなときに手近にあった材料が、グリーンワイヤーでした。当時はまだ子どもが小さくて、毎週のように動物園や水族館に連れて行っていました。だから子どもが好きな動物をモチーフにしてみよう、と。思った以上に認識してもらえたし喜んでもらえたので、どんどん違う動物たちにチャレンジして増えていったというわけです」

平面ではない立体物を選んだ背景には、美容師としての経験やノウハウもありました。髪型に通じる立体の方が、HAyUさんにとって親しみやすく、つくりやすかったのです。そして釘ではなくピン1本で固定できるくらい軽量なワイヤーアートであれば、ファッションのように気分次第で模様替えができるという大きなメリットがある。さらに“置き場所”が不要であることも、住居空間の横の広がりが取りづらくなっている時代のニーズに、ぴったりフィットしていると考えたそうです。

「美容師の仕事というのは、カッコいい“ヘアスタイル”をつくることではありません。どんな働き方をしていて、どんな風に見られたいか、ドライヤーやスタイリングを使うのか、使わないのか……。つまりは髪のカタチをアレンジすることで、お客さんのライフスタイルをデザインするという仕事なんです。それと同じように、僕はワイヤーアートをインテリアとしてとらえているので、購入してくださる方が一番使いやすいカタチを追求している。どんな家に住んでいても、どこに掛けても楽しめるということが大切なんですよ」

美容師を経て、仏花づくりの仕事の合間の「完全な趣味」、DIYインテリアとしてスタートしたというワイヤーアート。しかし田舎暮らしの気晴らしとして始めたSNSを介して友人たちからその作品は徐々に広まり、HAyUさんは世界中から新作が待ち望まれるほどの人気アーティストとなって、いまに至ります

「子どもたちを喜ばせたいと思って始めたことだから、ふたりの名前から1文字ずつを取ってアーティスト名を『HAyU』としました。誰かが友人のサロンやSNSで僕の作品を目にしたとき、『友達の小川(HAyUさんの本名)さんの作品だよ』って言われるより、『アーティストのHAyUさんの作品だよ』て言われる方がカッコがつくし、省略しようのない簡潔な名前にしたかったというのもありますね(笑)」

ヤコブセンとの対話と、 ワイヤーで表現した“ワニ革”柄ストラップ

そんなHAyUさんが、初めて腕時計を手掛けることに。しかもデニッシュモダニズムの巨匠、アルネ・ヤコブセンの代表的建築作品のひとつである「Rødovre City Hall」にインスパイアされた、「CITY HALL」をアレンジするというプロジェクトです。この特別なコラボレーションの依頼に対し、どんな印象をもったのか、どんな苦労があったのか、率直な想いを明かしてくれました。

「最初は、『本当に僕でいいんですか?』というのが正直な感想ですよね。ヤコブセンの建築に詳しいわけでないものの、スワンチェアやエッグチェアといった作品は、名作家具として当たり前のように知っていたわけですし。とにかくすごい、とんでもないブランドからお話をいただいたなと驚くばかりでした。

ただ腕時計という初めての題材に、かなり悩んでしまったのも事実です。ワイヤーアーティストである自分の代表作といえば、アニマルヘッド。でも、だからといってダイヤルに動物モチーフを取り入れるだけなんてチープだし、面白くありません。しかも腕時計に収まるくらいのサイズで動物を描いても、ワイヤー感まで表現するのは難しい。ワイヤーの質感を伝えつつ、大人の腕時計として成立するデザインに仕上げるという難題をクリアすることに、とても苦労しました」

時計の針をワイヤー風にすることも検討したものの、「せっかく完成されているデザインを壊してはいけない」と考えたHAyUさん。そこで注目したのが、レザーストラップでした。高級時計のストラップとして馴染みのあるワニ革の模様である斑(ふ)を、ワイヤーワークに模したエンボス加工で表現するという画期的なアイデアに辿り着いたのです。留め具の金具にも波打つワイヤー風の真鍮素材を用いることで、大人っぽく、さりげなく、上品に、“HAyUさんらしい”特別感を取り入れることに成功。またベルトの内側には、書画の落款(らっかん)をイメージしたというHAyUロゴが刻印されているのも見逃せません。

「日常的に身につけるものだからこそ、ベーシックなものがいいですよね。そこで奇をてらわず、動物としての”ワニ”ではなく腕時計の世界で高級品として認知されている“ワニ革”をモチーフに選びました。アルネ・ヤコブセンのデザインと違って、手仕事ならではの“ゆがみ”を大切にしている僕の作品は、全然洗練されてない(笑)。でも”ゆがみ”という僕の作品にとって大切な要素を、洗練されたヤコブセンのデザインとどのように調和させるか───そのひとつの答えが、有機的な“ワニ革”柄をワイヤーらしい“ゆがみ”や“つなぎ目”とともに表現することだったんです」

ワイヤーを使い、手作業で立体表現を行うHAyUさんの作品にとって、この“ゆがみ”に加えて線と線、ワイヤーとワイヤーの”つなぎ目”がとても重要な要素なのだとか。

「光の当たり方の変化によって時の流れを感じられるように、作品の向かって左側のワイヤーの分量感を多くしているのもポイントですね。僕がつくっているのは、家庭で楽しめるインテリアアートであって、ギャラリーアートではない。ずっと眺めていても、何時に見ても飽きないということを大切にしているんです。

僕と同じようにワイヤーを扱う作家さんでも、人によってはつなぎ目を少なくしたり目立たないように工夫する人もいます。でも、それでは本当に一筆描きのようで、特に平面に落とし込んだときなどは、ただの“絵”に見えてしまう。ゆがみやつなぎ目があるからこそ、温もりを感じ、ワイヤーワークだということが伝わるんですよ」

腕時計という制約が多く限定された領域のなかで、自らの世界観とヤコブセンの哲学が共鳴する見事なデザインを創り上げた、HAyUさん。その過程においては、アルネ・ヤコブセンの思考を想像し、追体験するという試みがあったことも明かしてくれました。

「ヤコブセンはエッグチェアなどをデザインする際、チキンワイヤー(園芸にも使われる金属製のネット)で造形していたそうなんです。園芸用のグリーンワイヤーからスタートした自分としては、無視できない共通点ですよね(笑)。だから余計に気になって、自分でもワイヤー製のネットを使ってエッグチェアを形づくることにより、ヤコブセンの思考に近づきたいと考えました。

実際にネットを使ってみて、改めて分かったのは、ネットをギュッと押し込んだり曲げたり、握ったりしたときにしか、表現できない“線”があるということ。デザインというのは使用する道具や素材によって生み出される線が大きく変わると思っていて、ペンで描く線とワイヤーの線、版画の線、石を削ってできる線は、全部違うんです。ヤコブセンの時代には、CADのような便利なツールは存在しないですからね。いまではエッグチェアのあの美しい3次元曲線は、チキンワイヤーがあったからこそ生み出せたものだと確信しています」

「ワイヤーがそこにあったから始まった」HAyUさんの創作活動ですが、「ワイヤーがなければ始まらなかった」のかもしれません。そして美容師としてのキャリアがなければ、立体作品をつくろうと思うこともなかった可能性も……。つまり美容師であったことも農家であったことも、アーティストHAyUさんにとって偶然などではなく、すべてが必然だったのかもしれません。

この一本が紡ぐ、新たな物語───境界を越える創作が、アートの可能性を拡張する

アルネ・ヤコブセンとHAyUさん、その必然とも思える出逢いによって誕生したモデル「CITY HALL 34MM X HAyU」。実物を手にした生みの親であるHAyUさん自身は、どんな方に身に着けてほしいと感じているのでしょうか。

「現代における腕時計は、時刻を知るための道具というよりアクセサリーに近い存在だと思っています。だからこの時計も、ちょっと遊び心のある大人の方に、デイリーに着けてもらえたらうれしいですね。性別を問わずに使えるサイズとデザインだと思いますし、女性はもちろん、男性も年齢を重ねてくると、ゴールドの方が肌馴染みがいいと思うんです。

Tシャツなどと合わせてカジュアルに装っても様になるし、シャツにも合うからビジネスはもちろん、僕の場合は子どもの授業参加などのオケージョンにもハマりそう。あとはヤコブセンが好きな、コレクターの方にもおすすめしたいですね。ゴールドのケースは初登場らしいので、いつものヤコブセンとはちょっと違う、変化球としても楽しんでいただけるのではないかと思います」

最近テキスタイルデザインという新たな領域に取り組むなかで、「3次元を2次元化する」という新しい発想を手に入れたというHAyUさん。そこから2次元表現のも面白さに開眼し、ワイヤーワークを刺繍で表現したり、刺繍にするためのワイヤーワークを製作したり、さらにはワイヤーの刺繍をイメージしたグラフィックを起こすなど、そのアイデアと創造性の広がりはとどまるところを知りません。そんなHAyUさんの将来のビジョン、これから挑戦してみたいプロジェクトについても教えていただくことができました。

 

「アートワークはアートワークとして継続していきたいんですが……。実はデッサンやデザインといった分野にも興味があって、いろいろと勉強している真っ最中なんです。あとは公共の福祉事業所などと一緒にプロダクトを製作したり、ワークショップを開催したりといった取り組みにも参加したいですね。

 

というのも、僕には自分の暮らしや背景から、自分と関わりのある人たちと一緒に、物作りをしたいという考えがあるんです。ワイヤーアートをギャラリーアートではなくインテリアアートにしたいのも、ヘアメイクではなく美容師としてのサロンワークが好きなのも、すべては自分のなかで、より“リアル”だから。そういう部分は、これからも大切にしていきたいと思っています」

素材やフィールド、2次元や3次元といった境界すら軽やかに飛び越えるHAyUさんの活動は、アートの可能性すら押し拡げ、未来の社会とどのようにつながっていくのかも期待させるもの。

またHAyUさんの創作は、美容師としての経験、農家としての苦労、父親としての愛情、そのすべてがワイヤーの一本一本に込められ、人生の「めぐり合わせ」と地続きであることが分かります。今回誕生した「CITY HALL 34MM X HAyU」もまた、アルネ・ヤコブセンという巨匠とHAyUとの「めぐり合わせ」が生んだ、唯一無二の物語を紡ぐ作品だと言えるのではないでしょうか。

それは単なる“腕時計”ではなく、日常に洒脱な遊び心と温かみをもたらす、”身に着けるアート”と呼べるものかもしれません。


HAyU(小川 学)


1976年、茨城県生まれ。東京、横浜で美容師として活動後、帰郷し園芸農家となる。2015年、ワイヤーアートの制作を開始。インテリアとしてのアート作品である、ワイヤーアニマルヘッドという独自のスタイルを確立する。17年、「青参道アートフェアー」にて作家デビュー。アーティスト名を、自身の2人の子どもの頭文字から「HAyU(ハユ)」と名付ける。19年には井上陽水氏のCDジャケットに作品を提供。創作範囲はインテリアアートにとどまらず、ホテルロビーや公共施設のディスプレイ、パブリックアート、テキスタイルやグッズデザインなど多岐にわたり、国内外で積極的にコラボレーションを展開する。現在は、全国各地で抽選による販売会を不定期で開催中。